家電じゃないのよ我が家は

和邇のコート・ハウス ©Hiroyuki Hirai

「地震に強い家!」
「地球環境に優しい、省エネの家!」

郵便受のチラシが叫んでいる
一応ウチも設計屋なんで、間に合ってます・・・古紙回収へポイ。

でも堂々とうたい文句になるには、それだけ需要もあるということ。
家づくり=耐震+省エネ。そんな考えも今や当たり前なんでしょう。

さて、いきなりですが今日の夕飯、何にします?

「ミネラルたっぷりの食事がいい」
「カルシウムが多ければなんでも」
そんな人は、あんまりいないでしょう。

「今日はカレーがいい」
「なんとなくラーメンの気分だ」
普通はそんなふうに、考えるともなく考えるはずです。オレはいま、何を食いたいか。

でも家の話になった途端、そっと引き出しにしまわれるオレの気分と欲望。そして「耐震」「省エネ」の錦の御旗のもと、粛々と家づくりが遂行される摩訶不思議。同じ衣食住なのに、どうしてこうも違うのか。

一生の住まいと一回のメシを一緒くたにするなと怒られるでしょうか。

生命財産を守るは建築の使命。地球環境を守るは人類の使命。ならば住まいに性能を求めるのは至極当然。なるほどその通り。そう思いトボトボ散歩し左右をみれば、居並ぶハイスペック住宅。これでもまだ足りません?

おちゃらけた建築家風情が何を言う。設備も構造も時代の最先端を行ってナンボ。性能より大切なものなどないのだ。

もちろんそれもいいんですが、10年もすればもっとスゴイ性能の家が登場し、いま最先端の家もやがて時代遅れになるんです。性能第一で建てた家は、いつか必ず性能不足に陥るという皮肉な運命。家電やパソコン見ればわかるでしょ。

そんなことを知ってか知らずか、日に日に高まる省エネ基準。追いかけても追いかけても掴めない、性能という蜃気楼。冷蔵庫なら10年使って古くなったらリサイクル、でも建築はそういう訳にはいきません。

何も省エネが悪いって言うんじゃないんです。私だって電気代は安い方がいい。でもちょっと落ち着いて。

マイナスイオン?プラズマクラスター?よくワカランけど、すごそうだ。
ゼッチ?ヘムス?スマートハウス?よくワカランけど、つけとくか。

我が家は家電じゃないんです。よくワカランものに、この先ウン十年のローンつぎ込んでホントにいいんですか。

和邇のコート・ハウス ©Hiroyuki Hirai

お役所の建物ならいざしらず、好き勝手に建てられるのが自分の家のイイところ。

個人が自由に一軒家を建てられる国って、実は先進国の中でもかなり珍しいんです。
自分の棲み家を、自分の好きなように建てる。考えようによっちゃこんな「お楽しみ」、世界中探してもそうそう見つかるもんじゃありません。

性能第一もSDGsも「正論」なのは重々承知。
でも一生の買い物だからこそもう少しゴキゲンにワガママに、王様気分で構えたっていいのでは。

日がな一日のんびりできる、リゾートホテルみたいな家。
美味しくご飯がたべられる、ビストロみたいな家。
気持ちよく昼寝ができる、マンガ喫茶みたいな家。

いま食べたいものを考えるように、いま住みたい場所を考える。
そんな家づくりってどうでしょうか。

キリのない性能とのお付き合いはほどほどに。
でも愛着をもって、永く楽しく暮らせる住まい。
建築家って、そういうのだけは得意ですよ。