2024.02.02 金閣寺東の町家(4) 内部仕上げに入っていきます。 今回は壁に二種類の素材を使います。 ひとつ目は「中塗り仕上げ」と呼ばれる土壁です。伝統的な土壁は竹を編んだ下地→荒壁→中塗り→仕上塗(漆喰など)の順で仕上げますが、途中工程である中塗りをそのまま仕上げにしてしまったものが中塗り仕上げです。町家にも多く見られ、元の建物にも使われていました。 今回は断熱材を入れるため、荒壁の代わりにラスボード(凹凸のある石膏ボード)を貼り、その上に中塗り土を塗ります。伝統工法の土壁に比べて費用も抑えられます。 中塗り土を塗ったところです。着色していない無垢の土が落ち着いた表情をつくっています。塗りたてはやや緑がかった色ですが、少しずつ乾いて薄いベージュに変化していきます。町家の意匠を残す仕事場や寝室にはこの中塗り仕上げを使います。 もう一つの壁素材はモルタルです。主にリビングに使いますが、グレーのモルタルだと冷たく無機質になりすぎてこの町家には少し合わないと考え、微かに色を入れることにしました。 モルタルに塗料を混ぜる場合、含水量の差などでどうしても色ムラが生じるため、目立たないよう黒や紺などの暗い色を選ぶのが一般的です。しかしそれでは空間全体が暗くなりすぎるため、あえて今回は明るい色を選びました。「灰梅」といわれる日本の伝統色で(写真ではわかりづらいですが)ほんのりピンクがかった灰色です。西陣織に使われる色であることも少し意識しています。 左官屋さんに見本を作ってもらい、色味や中塗土とのバランスを確かめます。見本ではどれも普通のグレーと大差ないように見えますが、大きな面積に塗ると明るく鮮やかに見え、違いがはっきりします。面積効果といわれる現象です。黒い見本はモルタルに炭を混ぜたもので、こちらは表の外壁に使います。 モルタルを塗る部分にラスカットという黒い下地板を貼っています。中央の箱状になっているのがキッチンです。 仕事場の机を作っているところです。大工さんにお願いし、糸屋格子の出窓と机の高さをピッタリ揃えてもらいました。机の奥行が広がり、小さなミセノマの空間を最大限に活用できます。 建具は町家の雰囲気に馴染むよう、コストの許す範囲で木製にしました。設計図をもとに大工さんが原寸図を起こしています。 建具や家具の塗装には柿渋を使いました。柿渋は渋柿を搾汁し発酵させたもので、木を長持ちさせるために古くから使われる自然塗料です。柿渋自体にはあまり色がないので塗った直後は明るい色味ですが、紫外線を吸収してだんだんと深い茶色に変化していきます。周りの古い柱に合わせて着色することもできますが、時間をかけて少しずつ味わいを増していく様がこの町家にはあっていると思いました。 いよいよ完成が近づいてきました。リノベーションも最終段階です。 PrevPrevious NextNext