2020.04.04 和邇のコート・ハウス建築記(6) 工務店の見積が届き、予算オーバーが判明しました。しかしこれはお施主さんと私たちの思いを詰め込んだ住まい。最初から値段の決まった既製の住宅とは出発点が違うのです。一度ぐらいの予算オーバーでヘコたれてはいけません。大事なのは空間の質を下げずに、いかに工事費を下げるか。ここが頑張りどころです。 ①今回の敷地は道路より高くなっているため、基礎が深くなっていました。これを「深基礎」といい、斜面地等でよく使う手法ですが、コストアップになっていました。床レベルを下げ、深基礎をとりやめます。②プランの広がりを優先したため、建物が土地の平らな部分におさまりきらず、基礎の端が宙に浮いています。この施工手間からコストアップになっていました。これを解消するため、プランを少しだけ圧縮します。 圧縮前後のプランを重ねてみました。全体的にひとまわり小さくなっているのが分かります。重要なのは、ただ単純に小さくしないこと。中庭の雰囲気を守りながら、プランの余分な贅肉だけを10cm単位でジワジワ削っていきます。部屋の使い勝手が変わらないよう、家具や家電もすべてレイアウトしながら慎重に検討を行います。結果、15%ほど床面積を減らすことが出来ました。 ところで設計をやっていると「坪単価はいくら?」なんて話をよくします。坪単価とは、工事費を床面積(坪数)で割ったものです。坪単価が安いとお得。高いと損。家づくりにはそんなイメージがあるかもしれません。 しかし設計者は経験でわかります。同じ条件でも、設計次第で面積の2〜3割は簡単に上下してしまうものです。たいして使わない部屋や廊下の多い家ならもっと面積は増えて、そのぶん見かけの坪単価は安くなります。 坪単価はあくまでも目安です。家の良し悪しを決めるものではありません。工事費が同じでも、100㎡の出来合いの住まいと、70㎡のこだわり抜いた住まいは単純に比べられないのです。だから坪単価なんて余計なことは考えず、仮に予算が3000万円なら、その3000万円を何に使えば一番価値があるのか、それだけを考えた方がきっといい家ができると思います。 「本当にそんなにたくさんの収納が必要か?」「たいしてお客さんも来ないのに、客間や大きな玄関が必要か?」「それよりも料理が好きならキッチンに、本が好きならたくさんの書棚に、音楽が好きならオーディオルームに、目一杯お金をかけるべきではないか?」 お施主さんも設計者もそんな自問を繰返し、本当に心の底から欲しいもの以外はスッパリあきらめてしまうこと。それがよい住まいをつくるための近道だと思います。もはや家の立派さ・大きさを誇る時代ではありません。床面積は小さくても、住む人の趣味やライフスタイルにあわせた特別な住まいの方が豊かに暮らせるはずです。それで「坪単価が高く」なったとしてもです。 やっぱり人間が住むところですから、一番大切なのは愛着を持って、長く楽しく住み続けられること。そのために質の良い、居心地の良い空間であること。省エネや耐震だってもちろん大事ですが、そこからスタートしてもいい家にはなりません。こんな空間に住みたい。この家でこんなことがしたい。それが家づくりの一番の動機であるべきだと思います。一生一度の買い物ですから、せっかくなら楽しんだほうがよいですよね。 閑話休題。現実逃避してエラそうなことばかり書きましたが、そういえばまだコストダウンが終わっていませんでした・・・。 プランの都合上、キッチンがL型の特注品になっていましたが、既製品が使えるよう一般的な長方形に変更します。お施主さんのイメージは、レストランの厨房のような大きくてすこし無骨なキッチン。一緒にショールームを巡り、サンワカンパニーのものに決めました。 それぞれの工務店とも打ち合わせ、少しでも工事費が下げられるよう、お互いに知恵を絞ります。減額案がまとまり、再見積を依頼。うち一社で700万円ほど減額でき、なんとか契約にこぎ着けました。同時並行で進めていた確認申請も終わり、いよいよ着工です。 PrevPrevious NextNext